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プレスリリース

Nutrientsに当院薬剤師 松本彩加の論文が掲載されましたのでご紹介します

2022-05-12
カテゴリ:プレスリリース
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サルコペニア患者のポリファーマシー是正で摂食量が増加
脳卒中後のリハビリテーションを行うサルコペニアの高齢者を対象とした研究により、ポリファーマシーの是正(減薬)が、栄養摂取量の増加に関連することを明らかにしました。本成果はサルコペニア患者において減薬やポリファーマシーに対処することが栄養療法の効果をより促進させることを示唆する臨床的に重要な知見であると考えられます。本研究は英文誌「Nutrients」で公開されました。 
背景
超高齢社会のわが国では、生活機能が低下しリハビリテーションを必要とする患者や、筋力、筋肉量が低下したサルコペニア患者が増加しています。サルコペニアはリハビリテーションを行う患者の機能回復に悪影響を及ぼします。また高齢者は多くの疾患を抱え、治療のため多数の薬剤を服用するポリファーマシーも問題となっています。サルコペニア治療の中心は運動療法とたんぱく質を中心とする栄養療法であり、現在の診療ガイドラインでは有効な薬物療法はありません。しかし、ポリファーマシーは身体機能の低下や低栄養と関連することが知られており、サルコペニアの治療にも影響する可能性があります。しかしながらサルコペニア患者に対するポリファーマシーの影響に関してはエビデンスが少ないのが現状です。
そこで、本研究では、回復期リハビリテーションを行うサルコペニアを合併した脳卒中後の患者を対象として、ポリファーマシーの是正(減薬)が栄養摂取量、サルコペニアの改善と関連するかを調査しました。


内容
本研究では、当院の回復期リハビリテーション病棟に入院した脳卒中後の患者のうち、65歳以上の高齢者かつ、サルコペニアである患者かつ、入院時に服用していた薬剤数が6剤以上のポリファーマシー状態の患者91名(平均年齢81歳、男性48.4%)を対象とした、後ろ向き観察研究を行いました。サルコペニアはアジアワーキンググループの2019年版の基準に基づき、筋力と骨格筋量の両方が低下している場合に診断しました。入院時と退院時の処方薬剤数をそれぞれ調査したところ、対象患者の入院時の処方薬数の中央値(四分位範囲)は8(6-9)剤でした。入院期間中に処方薬剤数が減少した減薬群が39人、非減薬 (変化なしまたは増加) 群が52人でした。入院時の処方薬剤数は減薬群で9 (7-11)剤、非減薬群で7 (6-9) 剤、退院時までの変化は減薬群で-2 (-3 - -1) 剤、非減薬群で+1 (0-2) 剤でした。研究のアウトカムは、退院時のエネルギー摂取量、たんぱく質摂取量、握力、骨格筋量指数 (SMI) と設定しました。様々な交絡因子を調整した多変量解析を用いて、入院中の処方薬剤数の変化量がアウトカムと関連するかを検証したところ、退院時のエネルギー摂取量 (β = -0.237, p = 0.009) およびたんぱく質摂取量 (β = -0.242, p = 0.047) と有意に関連し、退院時の握力 (β = -0.018, p = 0.768) およびSMI (β = 0.083, p = 0.265) とは統計的に有意な関連はみられませんでした。
今後の展開
本研究により、リハビリテーションを行うサルコペニア患者に対してポリファーマシーを是正すること (減薬) は栄養摂取量の増加と関連することが明らかになりました。ただし、握力やSMIとの関連はみられませんでした。ポリファーマシーの見直しはサルコペニア患者に対する栄養療法を支持する可能性があり、さらに運動療法と組み合わせることで、サルコペニアを改善できる可能性があると考えられます。今後は、どのような薬剤が特に栄養摂取に関連しているのかを明らかにしたいと考えています。
執筆者
薬剤師 松本彩加