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「再生医療を多くの患者さんへ」 
  再生医療センター長・形成外科部長 吉川 厚重
痛み・冷感や壊死に苦しむ多くの足を救いたい………足の血管の病気である閉塞性動脈硬化症が原因で起こる様々な症状の治療を行う「くまもと下肢救済センター」を開設したのは2014年のことでした。以降約5年にわたり、血管外科と形成外科、放射線科、フットケア外来が強力に連携し、下肢の安静時疼痛、潰瘍、壊死といった重症虚血肢に対し治療にあたってまいりました。できるだけ切断を回避し、また切断する場合も最小限に止め、血管の再建を行うことで生命予後と快適な生活向上に少なからず寄与してきたと自負しております。
しかしながら、中には大切断を余儀なくされ、また手術ができない患者さんもいらっしゃいます。下肢救済センターとして我々にできることはなにか。模索している最中に得た選択肢が「脂肪組織由来再生幹細胞を用いた再生医療」でした。
重症虚血肢においてはこれまで3症例実施し、いずれも痛みや冷感の緩和、切断回避と良好な結果に至っております。

文献検索する中で、本再生医療は重症虚血肢以外に、脊髄損傷、脳卒中後遺症、変形性膝関節症にも有効であるとの知見を得、治療が難しい疾患に順次認可を受け、リハビリテーション科、脳神経外科および整形外科専門医との連携により順次治療を開始いたしました。
当院の再生医療は、治らない疾患・症状に対し、患者様自らの細胞をもって治療する、従来の治療とは一線を画す新しい治療方法です。

我々熊本リハビリテーション病院が提供する再生医療が、患者様の現在と未来をつなぎ、全ての方が早期社会復帰をいただくことを信じ取り組んでおります。

今後の再生医療にどうぞご期待ください。


「重症虚血肢に対する再生医療への期待」
下肢救済センター長・血管外科部長 山下 裕也
重症虚血肢とは主として動脈硬化により下肢の血行障害をきたし、その結果安静時の痛みや潰瘍・壊死を発症し、最悪の場合下肢切断を余儀なくされる重度の病態を意味します。治療は内服薬が基盤となりますが、いわゆるサラサラ薬で動脈硬化そのものを治す薬剤は現時点では残念ながら存在しません。従って圧倒的に血流を増やす治療としては血管内治療(いわゆる風船治療)およびバイパス手術などの外科的血行再建術のみで、これらは保険適応となっています。しかしながらさまざまな要因でこれらの治療が行えない患者様がおられることも事実です。
 当院の下肢救済センターでは2017年より脂肪組織幹細胞を用いた再生医療(脂肪組織由来再生幹細胞群移植,ADRCs)を導入し、上記のような保険適応治療が困難な患者様3名に対して施行し、いずれも大切断回避はもとより症状の軽減~消失に導くことができました。
 動脈硬化は高血圧,糖尿病をはじめとした生活習慣病の一環として捉えられ、脳梗塞・脳出血や狭心症・心筋梗塞などの心臓病とともに下肢も好発部位となっています。下肢救済センターでは様々な治療方法を取り入れた集学的治療により下肢の健康を提供しております。そのなかでADRCsは現在はもちろん将来的にさらなる有用な治療手段の一つとなるものと考えています。
 下肢の血行障害でお悩みの患者様がおられましたら、ぜひ一度当院再生医療センターにお問い合わせくださるようお願いいたします。
「脊髄損傷への再生医療の普及を目指して」
リハビリテーション科・名誉顧問 古閑 博明
頚・脊髄損傷の神経麻痺を回復させる治療法はリハビリテーションしかなく、後遺症が残ることが多く、何か方法はないか考えてきましたが、当院がすでに行っていた下肢血管に対する再生医療が神経再生にも効果があることがわかり、2019年7月より導入しました。
当院の頚・脊髄損傷に対する再生医療は脂肪細胞由来再生幹細胞群(ADRCs)を培養することなくその日のうちに点滴静注します。日本で初めての試みで、手術の合併症、特に肺梗塞には、検査、治療等万全の体制で臨んできました。7月3日に1例目を行い、現在まで25例おこないましたが問題になるような合併症はありませんでした。
まだ期間も短く結果を報告できるまでにはいたっていませんが、痙性、しびれ、痛み、冷感には効果があるように思います。軽減した方18名、薬減量できた方10名でした。日常生活動作に影響するまで麻痺の改善を得られた方は14名でした。術後1年以上経過した方々が出てきましたが、ほとんどの方で効果は持続しているようです。
しかし効果がない方もおられ、今後はどのような方を対象にするか、研究、検討が必要になっております。また2回目の再生医療を希望する方も数名おられ、これも日本で最初の試みになると考えられ、前向きに検討しております。
当院が行っている再生医療の結果は逐次国に報告しております。
結果が評価され、今後再生医療が保険適応となり全国に普及することを期待しています。


「脳卒中後遺症に対する脂肪組織由来再生幹細胞(ADRCs)を用いた機能回復療法」
脳神経外科部長 弥富 親秀
脳卒中とは、脳血管の閉塞または脳血管からの出血により突然神経症状が出る疾患です。急性期の治療として、閉塞性の脳卒中の場合、血栓溶解や、血栓除去が行われます。急性期治療が成功すれば運動障害などの神経症状を残さず回復します。急性期治療後運動障害などの後遺症があれば、機能回復訓練で症状の改善に努めます。
出血性の脳卒中は、出血の量、出血部位によって、後遺症がない場合から後遺症が重度になることもまであります。どの脳卒中も機能回復訓練により、後遺症を少しでも軽減するように治療が行われます。
機能回復訓練を行っても、後遺症が継続する場合があります。このような患者様の症状の改善を期待して、再生幹細胞治療を提供しています。
まだ始まったばかりの治療ですので、後遺症に対して効果があるのかどうか、もしあればどのような症状に効果があるか、まったくの未知数です。しかし現在当院で提供できる最善の方法であると信じてお待ちしています。


「変形性膝関節症への手術・保存療法に次ぐ第三の治療選択肢として」
整形外科 竹村 健一
これまで整形外科専門医として、変形性膝関節症に対し、数多くの人工膝関節置換術を行ってきました。ほとんどの患者様が、痛みがなくなり歩行がしやすくなったと手術に満足される一方で、やはり金属が入ったことによる違和感を訴える患者様もわずかながらいらっしゃいます。また手術の適応については厳しめに設定しているため、痛みが強くても変形が軽度な場合は、筋力訓練の指導や、ヒアルロン酸の注射を行うことで症状の緩和を図ってきましたが、それでも痛みが取れずに手術を希望される患者様もいらっしゃいます。
そのような患者様にとって、手術・保存療法に次ぐ第三の選択肢として、ご自身の脂肪から抽出した脂肪由来幹細胞を使った再生医療を開始することに致しました。これは「生きたヒアルロン酸」と表現されることもあり、膝関節の炎症を抑え、痛みを緩和するだけでなく、損傷した軟骨の再生にも一定の効果があるという報告があります。もちろん手術ではないので、変形した骨を矯正することは出来ませんが、膝関節の中で移植した幹細胞が生き続けることにより、持続した抗炎症作用が得られると考えられております。
ご自身の細胞に由来する治療のため拒絶反応が起こりにくく、副作用の可能性が低い治療です。また当院では幹細胞を培養することなく直接関節内に注入するため、治療は1日で完了します。ご興味のある方は、是非ご相談いただけると幸いです。